ココロサードプレイス

日常で考えていることを書いています。

西川美和『永い言い訳』

「もう大丈夫だ」という言葉を、ここ数年よく口にしていた気がする。もう昔のように迷ったりしない・もう自分で解決できないことはない・もう何も怖くない・・・そんなような意味で。

仕事において、人生において、よく“成長したかどうか・成長できるかどうか”が重要であると言われ続けてきたし、そしてここ数年のあいだに、自分が物凄く成長したような気がしていた。

けれど、今日現在たった今のこの瞬間に、10年前と全く同じことで全く同じように悩んでいたりする。

このことだけを考えたら、私は全く成長していないようである。だけど最近、実は、何も成長しないで生きていくことなど、逆に不可能ではないかと考えるようになった。

例えば、私が、いわゆるひきこもりで、誰とも接しない期間が長くあったとしても、毎日何かを考えているはずだし、その分昨日とは違う自分であると思うし、それも成長だと言えると思う。

「そのやり方では成長はない」というようなことをよく言われていたけれど、毎日呼吸をしてただ生きているだけでも、何も成長しないということは逆にありえないんじゃないかと思う。私の思考が生き続けている限り、実は、今日の私は必ず昨日とは違う自分である。

人は、経験をして学んで、同じ失敗を繰り返さないでいられるかもしれないし、ものすごい成果を挙げられるかもしれないけれど、どんなにすぐれた(いろいろな意味で)人であっても、永久に解決できない自分の問題はあるのだと思う。

昨日、立川シネマシティで『永い言い訳』を観て、夜は竹原ピストルさんのライブを見に行き、そして今、小説の方を読み終えた。逆の順番だったら今どんな余韻が心にあるんだろうかということも気になっているが。


西川監督の作品は、世間で成功者とされる人・真逆の人・賢い人・ずるい人・騙す人・騙される人・優しい人・怖い人、いろんな人が登場するけれど、本当に誰も憎めない。全ての登場人物が愛おしい。全ての人の葛藤に心を揺さぶられるし、いろんな立場の人のいろんな葛藤に自分を見出す。

そんな作品の中でも『永い言い訳』は、鑑賞後に自分に引き渡される余白の部分が最も大きいと思った。

本木雅弘演じる主人公、衣笠幸夫の分かりやすいダメさ加減も、子供との交流で新たに芽生える自分の知らなかった部分も、亡き妻に対する想いも、それが日毎に変わっていくこと全てに、ここからが本当でここからが嘘であるという線は誰にも、たぶん本人にも引くことができないし、妻への想いが何であるのかも、少なくともカテゴライズできるようなものではなく、そして、亡き妻がほんとうのところ、彼のことをどう思っていたのかも分からない。

竹原ピストル演じる、大宮陽一の真っ直ぐさを眩しく感じるほど、本音を言えない自分の格好悪さが苦しい。これは日常でほんとうによく思っていることだ。恥をかきたくないという想いで口にできない言葉の数々を飲み込むたびに、いつも素直になりたいと思う。


長編二作目の『ゆれる』も、映画を観てから、映画よりはボリュームの多い情報量の中に答えを探しに行くような気持ちで小説を読んだのだけれど、情景を鮮やかに頭の中で描ける楽しさはあれど、自分が求めていた直接的な疑問の解決ができるすべはなかった。

でもその時になってやっと思えたことがある。

たぶん永久に解決できないであろうことを抱えながら歩く生き方も、愛したいということである。

私はここ数年、長以前より自分に自信を持てるようになって、生きやすくなったなあと思っていた。

だから、「そんな自分が、もしかして勘違いだったかもしれない」なんてことはあってはいけなくて、これから発生するであろう、疑問や悩みも、ブレずにつきつめて考えれば、全てに答えは出るはずだと思っていた。

でもやっぱり気づいたら、10年前と全く同じことを悩んでいるのである。

それが、解決できないとは思いたくなかった。

『解決できない問題カテゴリ』など存在しないという生き方を目指して躍起になっていたところなのである。

でもそういえば、今までの西川監督の作品を観てきて何度も思ってきたはずだった。

たぶん私はこれからも、解決できない想いを、いつでも振り返るし、がっかりするし、悲しくなるけれど、自分とはそういうものだし、そんなことも忘れているときもあって、また思い出して、笑ってしまうくらいダメだなって思って、でもまた忘れたい。思い出したい。

そして、たぶん私が出会う人もきっと、何かしらの、決して愉快ではない想いも抱いていて、そういういろんな人の想いがいろんな形で交差して


それは時に不幸であったり残念なことだったりするかもしれないけれど、それでもまた私たちは明日を始めることができるし、少なくともそこには、昨日より成長した自分しかいないことは確かであると思う。

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